帝京大学文学部 日本文化学科 講師
髙久 舞 先生
2017年から國學院大學文学部 日本文学科兼任講師を務めつつ、2018年から神奈川県教育委員会教育局生涯学習部文化遺産課専門職員(非常勤)、2019年から昭和女子大学人間文化学部 歴史文化学科兼任講師、お茶の水女子大学生活科学部非常勤講師を兼任。2021年から帝京大学文学部 日本文化学科講師となり現在に至る。
民俗学は人々の生活の中に蓄積された文化や伝承を研究する学問。その中で髙久舞先生は、祭りや行事で演じられる芸能を研究している。地域に受け継がれる神楽、盆踊り、能劇、歌舞伎といったさまざまな芸能には、人間社会をよりよく考える重要なテーマが隠されている。
注目するのは、芸能の能力を持つ個と、芸能を披露する祭りを運営する集団との関係性。芸能は神事と結びついて家や個人が担う一方、祭りは地域=集団のイベントのため、芸能の才覚を持つ個が祭りを仕切ろうとしてもうまくいかない。個と集団の関係性は、地域の芸能を理解する上で欠かせない要素になっている。
その関係性を探るために、地域の祭りのキーパーソンを見つけ、文献や歴史を調査して地域社会における芸能の役割を把握する「キーパーソン研究」を実施。例えば秋田のある地域では、祭りに“ボサマ”と呼ばれる座頭を呼ぶ風習が続く。キーパーソンから個と集団の関わりや歴史の変遷が分析しやすくなり、現代につながる風習の理解が深まるという。
地域の祭りや芸能の課題は、少子高齢化や都市への人口集中によって存続の危機にある。地域外から人を入れて芸能の継承を図っても、個と集団の関係性が構築できないことで存続が難しいケースも多々ある。時代に合わせて少しずつ形を変える柔軟な芸能は残り、そうじゃないものは淘汰されていく傾向が強い。
福岡の筑豊炭田で歌われた「炭坑節」は洗練されながら全国に広まり、今や盆踊りの定番民謡になっている。芸能の形は変わってもそれを楽しむ集団の存続に影響はなく、過去の芸能はそうやって取捨選択をしながら生き残ってきた。SDGsも芸能と同様。個である私たちが続ける覚悟をもつと同時に、社会全体の変化を認め、新しい社会をつくるための貢献に目を向けることが重要だ。